悪女は果てない愛に抱かれる
数秒後、車は走り去っていき、心配は杞憂に終わった。
はずだった。
「ね〜あゆ先輩。今日の放課後ってヒマ?」
「え? うーん、今のところ特に予定はないけど」
「よかったあ。じゃあ今日も来てくれるっ?」
「へ?」
来てくれる?って……まさか、昨日のビルに?
橘観月くんのいる、あのビルに?
「朝からうちの妹がごめんね、昨日からあゆちゃんに会いたい会いたいってうるさくて……。わがまま聞いてもらえると助かるなあ」
困惑しているときに、楓くんにとろけそうに甘い笑顔でそう言われ。
まるで催眠にかかったかのように、こくんと頷いてしまう。
あれっ? わたし……どうして!
彼の笑顔には抗う術は、おそらく全人類持ち合わせていない。
早く言わなくちゃ。
やっぱり無理ですって。
「あのっ、」
「じゃあ放課後、あゆ先輩のクラスに迎えに行くからね!」
「え、あ、うぅ……」
きらきらな目を向けられると言葉に詰まる。
結局、昇降口で別れるまでNOと言うことはできなかった。