悪女は果てない愛に抱かれる

なんと、楓くん。

甘~い笑顔と甘~い声に、教室にいた全員が一瞬で彼に釘付けになる。


そして、楓くんがこちらをめがけて歩いてくるものだから、みんなの視線は必然的にわたしにスライドしていき。



「お迎えにあがりましたよ。さ、帰ろ?」


わたしの手をとって、そんなことを言うから。

鼓膜をつんざくほどの喧騒が巻き起こり、その光景、まさにブリザードのごとし。



「今井さんって、たしか朝もルリちゃんと歩いてなかった?」

「だよね。なんで?」

「しかも今度は楓様がじきじきにお迎えって……」

「まさか付き合ってる⁉」

「いや無理無理無理ありえない! 楓様は特定の彼女つくらないもん!」



助けを求めようと遥世くんのほうを見るも……。
なんと机に顔を突っ伏せて、知らん顔である。


この騒ぎの中、眠れる人なんているわけない。

わざとだ、絶対わざと。

目立ちたくないからってわたしだけ好奇の目の中に置き去りにするなんて……酷いよ……っ!


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