悪女は果てない愛に抱かれる
片手でわたしの手を引きながら、片手でわたしのスクバをひょいと持ち上げて。
楓くんがなにか動作を起こすたびにクラスの空気がざわっと動く。
にこにこしているのに力だけは強くて、わたしはずるずると引きずられながら、ついに廊下に出てしまった。
「あのねっ、わたし実はさっき急用を思い出して! 今日は早いところ家に帰らなくちゃいけなくて!」
「え~、なんも聞こえな~い」
「か、楓くん……。お願いお願い……本当に無理なのっ」
「う〜ん。でも、ルリが補習から帰ってきたときにあゆちゃんがいなかったら困るなあ。オレのほうこそ一生のお願い……ね?」
「う、うぅ……」
今度は触れたら消えてしまいそうな儚い笑顔を見せられ、うぐっと言葉に詰まる。
改めて、恐ろしい武器だ……。
やだ、どうしようっ。
今はまだ観月くんに会うわけには……!
ぐい!っと、楓くんの腕を思いきりひねり上げてしまったのは、……無意識だった。