悪女は果てない愛に抱かれる

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午後4時半。

旧橘通りに建つ例のビルを目の前にすると、漠然とした絶望感に襲われた。


心なしか、昨日よりも高くそびえているように見えるし、
怖い顔でこちらを睨んでいるように見えるし。

エントランスの扉さえわたしを拒んでいるように見える。



「本当に、大丈夫? 観月さんて人、わたしみたいな部外者が立ち入ることをよく思わないんじゃないかな」


わたしの少し前に立つふたりに声をかけた。


最後の試み。
できるだけ落ち着いた声で伝えてみる。


真剣さが伝わったのか、楓くんも、遥世くんもぴたりと足を止めてこちらを振り返った。


──そのときだった。



「俺が……なに?」


すぐ背後に人の立つ気配がしたかと思えば、耳元で低い声が響き、ひゅ、と息を呑む。


相手がゆっくりとわたしの前に回った。

心臓が狂ったように早鐘を打つ。


彼の口元は薄く笑っている。


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