悪女は果てない愛に抱かれる
夢うつつに昔のことを思い出していると、しだいに意識はっきりしてきた。
ゆっくりと目を開く。
白い……天井。
白い壁……。
どうやら、ソファに寝かされているみたいだ。
ぼやぼやとした景色の中に人影が映る。
これは……たぶん安哉くんだ。
額に冷たいタオルの感触がある。
迷惑かけちゃったな。
早いところ起き上がって、お礼を言わないと……。
まだ気だるい体を起こしかけて……直後、ハッとする。
──『“もうここには来るな”。昨日、そう言わなかったか』
そうだっ、わたしは楓くんと遥世くんに連れられて来て……。
ここは自宅じゃない。
橘通連合の本部ビル。
つまり、今わたしのすぐ近くにいる人は……安哉くんではない。
次の瞬間、意識が完全に覚醒した。
恐らく青ざめているであろうわたしをじっと見つめていたのは、
楓くんでも、遥世くんでもなかった。