悪女は果てない愛に抱かれる
「っ、……観、月、くん……?」
部屋には、わたしたち以外誰もいなかった。
いったい、どういう状況……?
まだ夢を見ているんじゃないかと思ったけれど、それはあくまでわたしの願望にすぎず。
何度まばたきをしてみても、目の前の景色が変わることはない。
「ぅ……あの、介抱してくださって、ありがとうございました」
聞きたいことは山ほどあるけれど、まずは人としてお礼を述べるのが先決だと思い、おそるおそる声を掛ける。
すると彼は、読みかけの分厚い本をぱたりと閉じて言った。
「具合は」
「へ?」
「体の具合だよ。もうへーき?」
想像していたよりもずっとやさしい声が返ってきて、戸惑った。
来るなと言われたそばからのこのこやってきて。
挙句、目の前で倒れるという失態をおかして手をわずらわせたのに……怒ってないの?
「は、はい。風邪とかじゃなくて、知恵熱なので……もう大丈夫です」