悪女は果てない愛に抱かれる
「シュークリーム食べないんですか?」

「俺はいい。食べたらすぐ帰れよ」



それだけ言うと、観月くんの視線は本に戻っていった。

ここで食い下がるのも違う気がして、大人しくふたつ目に手を伸ばす。


さっきと変わらない美味しさのはずなのに、隣にあの橘観月がいるせいで味がよくわからない。


正体を見抜いているなら、隣でのんきにシュークリームなんか食べさせずに、とっくにわたしを締め上げているはず。

かといって油断はできない。


──『もうここには来るな』

あの言葉の真意は?


バレてないけれど、怪しまれてはいる?

どう、なんだろう……。


こちらから尋ねるわけにもいかないし、観月くんが何を考えているかわからなくて怖い。



「お前、学年はルリのいっこ上だっけ」


あとひとくちで食べ終わるといったときに、突然話しかけられ。


「っ、ぅ!?」


あやうく喉に詰まらせそうになる。

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