悪女は果てない愛に抱かれる
「………みづきくん」
「ん……、最高、」
刹那、もう何度目かわからないキスに呑まれた。
視線も声も触れる温度もすべてが甘くて、わたしたちは恋人同士なんじゃないかと錯覚する。
こんなの絶対におかしい。
──“橘観月にだけは絶対近づくな”。
安哉くん、どうしよう。
敵なのに。だめなのに。
──“橘観月と寝ろ“。
そうだ。
そういうことにしておいたら、いいんだ。
わたしは利用するために橘観月に近づいた。
このまま上手くいけば、お父さんにも褒められて……。
それでいい、はずなのに。
どうして胸が痛いんだろう……。
答えが見つからず、じわりと目の奥が熱くなったのと。
わたしのスマホが鳴ったのは、ほぼ同時。
「……っ!」
水をかけられたかのように、一瞬で冷静になった。
体温が急激に失せていく。
先程までとはまったく違う理由で鼓動が早まる。