悪女は果てない愛に抱かれる
情か、虚か


.



「おい、あゆ」


家の玄関をくぐった瞬間、安哉くんの怒りの声が飛んできた。


「昨日は約束破るわ今日は電話無視するわ、なんなんだよ」

「………」


「お前昨日からなんかおかしくねえ?」

「……ごめん、大丈夫」


安哉くんの隣を通り過ぎようとすれば、腕を掴んで引き止められる。



「それ大丈夫って顔じゃねえだろ」

「だ、だいじょうぶ……」


「具合悪いのか? それとも学校の奴らにいじめられたりとか──」

「っ、そんなんじゃないから……」



振り切ろうとしても強い力で離してくれない。



「正直に言えよ」

「……電源切ってたから電話気づかなかったの」


「嘘つけ。お前鳴ってるときに自分から切っただろ」

「〜っ、なんでもいいじゃん。とにかく出れなかったの! ていうか、安哉くんにいちいち報告する義務ないし……っ、あっちいってよ」
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