悪女は果てない愛に抱かれる
シートベルトをぎゅっと握りしめる。
「お客さん、なんか顔色が悪いように見えますけど、大丈夫ですか?」
フロントミラー越しに運転手さんと目が合った。
「じ、実は今、兄と連絡が取れなくて……もしかしたら間交差点の事故に巻き込まれてるんじゃないかって……」
「ええっ? それは大変ですね」
「やっ、ほんと、絶対違うし大丈夫だと思うんですけど……心配でいてもたってもいられなくて……っ」
「そういうことでしたか。わかりました、急ぎます。ご無事だといいですね」
初めはのんびりしている人に見えたけれど、思いのほか誠実な人だ。
さっきまでひとりで不安に塗れていたから、それだけで少し救われた気がした。
間交差点が近づくにつれて、だんだんと渋滞がひどくなってきた。
間交差点まで、あと1キロといったところ。
「もう、ここで大丈夫です、ありがとうございました」
「わかりました。道路脇に停めますね」