悪女は果てない愛に抱かれる
「はあっ、……はあ……っ」
昼間とは打って変わって冷たい風が吹きぬける道を一直線に走る。
息はとっくに上がっているのに、足が止まることはなかった。
数百メートル先に赤いサイレンがいくつも見える。
交差点の真ん中には、横転している車。
すぐ近くに、前方部分が大きく破損しているワゴン車。
その先にはガードレールに衝突した軽自動車。
バイク……は……どこ……?
いざ現場が近くなると、今になって足が竦んでしまう。
確認するのが怖くて、一旦スマホに逃げた。
安哉くんの連絡先をタップする。
『──おかけになった電話は、現在電波の届かない場所にあるか………───』
やっぱり繋がらない。
「……安哉くん……」
ゆっくりと一歩を踏み出す。
安哉くんじゃないことを確認しに来たのに、確認するのが、怖い……。