二週間の偽装彼氏~義兄の兄に溺愛されています~

事の次第

「……なるほど。それは災難ね……」

 夕食の箸を使いながら、美香は眉を寄せて、沈痛な面持ちになった。

 美璃に寄り添うことを言ってくれる。

 隣に座る、腫らした目元の美璃も、そのまま肯定した。

「そうでしょう! 本当、信じられない!」

 姉に聞いてもらった安堵から、また涙が零れそうなのを、美璃は大きくすくったご飯を頬張ることで堪える。

 リビングで一通り事情を聞いてもらったあと、夕食を振る舞われることになった。

 ちょうど夕食どきだったし、今の心情で一人暮らしの家へ帰って、食事の用意をするのは辛かったから、有難いお招きだ。

 美璃は素直に甘えることにした。

 それで美香たちの食卓に混ぜてもらって、ダイニングテーブルの前、一脚の椅子を借りている。

 今日のメインは秋らしく、炊き込みご飯だった。

 しめじやにんじん、鶏肉などが入っていて、炊き立てほくほくだ。

 頬張れば、出汁の優しい甘味が口いっぱいに広がった。

 食卓にはほかにも美香手作りの料理が並んでいる。

 豚肉のソテーに、筑前煮。

 副菜も何品か。

 料理上手な美香のご飯は、いつもあったかくて美味しい。

「大変だったんだね」

 そんなご飯を食べながら、美香の向かいに座るひとも同意してくれた。

 短い黒髪を綺麗に整え、二重の優しげな目元をしている彼は、義兄の颯太(そうた)だ。

 部屋着のカットソーにジーンズというリラックスした格好でお箸を持っているが、今は痛ましげな表情を浮かべている。

 二十四歳の美璃と、姉の美香は五歳差で、やや歳が離れているのだが、その美香とは同い年。

 美璃としては、本当の兄にも近く思っているひとである。

 ちなみにその隣には颯士が席に着き、静かにご飯を口に運んでいた。

 スーツのジャケットは椅子の背にかけてある。

「そうなんですよ……。情けない話ですけど、本当に……」

 颯太の優しさに、また鼻の奥がツンとしてしまいながら、美璃はもうひとくち、ご飯を頬張る。

 もうたくさん泣いたし、姉にも颯太たちにも話を聞いてもらった。

 これ以上引っ張るのはみっともない、と自分に言い聞かせる。

 すべての原因になったのは、今日の退社時のことだった。

 今からたった、数時間前の出来事である。
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