邪竜の鍾愛~聖女の悪姉は竜の騎士に娶られる~

第二話 聖女暗殺未遂という濡れ衣

 アトルリエ聖竜国では竜の神話が信じられている。雪深いアトルリエ聖竜国は、街灯が生み出される前は、長い冬に降る雪のせいで冬は常に暗かった。
 その暗さ──闇に紛れて犯罪が起きるのが、昔は魔物が生み出されるためだと思われていた。
 そう、闇は魔物を生む。その闇を打ち払うために天から遣わされたのが、竜だ。
 闇と戦い、世界を光の下に連れ出した竜はしかし、しかしその身を闇に浸食され、正気を失った。
 闇の化身となり、世界を滅ぼさんとする存在へと堕ちた邪竜を浄化したのは、ひとりの人間の少女だった。
 聖なる光の力を持ち聖女と呼ばれた少女は、その命と引き換えにして邪竜をアトルリエのいっとう高い場所まで届くステラ火山のうちに封印した。
 その竜は今もステラ火山のもとに眠っている……そういう神話だ。
 そのため、竜と聖女はともにこの国での信仰対象なのである。
 今代の聖女であるセレナ・リリス・フララットも当然、信仰される存在だ。
 ゆえに、アトルリエ聖竜国の象徴ともいえるセレナを害そうとした、殺そうとしたということは、この国では反逆罪となる。
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