邪竜の鍾愛~聖女の悪姉は竜の騎士に娶られる~
 その拘束は、突然だった。
 聖女であるセレナ・リリス・フララットの暗殺を企てたとして、ミリエルは投獄された。
 聞けば、セレナが眠っているとき、セレナの部屋に侵入した何者かが、セレナの胸をナイフで突いたのだ。幸い、何重にも防護魔法を施している聖女セレナには傷一つなかったが、聖女が暗殺されかかったことが問題となった。
 現場には、髪が落ちていた。銀色の長い髪はミリエルの色だ。
 また、現場に残されていたナイフはミリエルの私物だった。安っぽい、木製のペーパーナイフが凶器だとされた。決定打となったのはセレナの証言。正直、これが一番の理由だろう。
「お姉様があたしを殺そうとしたのよ!」
 そのひとことで、ろくな弁明の機会も与えられず、「聖女のはきだめ」は犯罪者となった。
 聖女を殺そうとしたのだ。火刑が妥当だろうとのことだったが、身内ゆえにそれは聖女の名に傷をつけることになりかねない。この件は公にせず、かわりにミリエルは竜の眠るとされる火山への贄として火口に投げられることとなった。
 表向きには、聖女の悪姉が改心し、自分から生贄役を買って出た、と発表されるらしい。
 ぼろぼろの貫頭衣を着せられ、後ろ手に縛られたミリエルは、ステラ火山の火口に設置された、火口に飛び込むための──強制的に落とすための、簡単に壊れる台に載せられていた。
「ユアン……ユアン……」
 かさついた唇で呟くのは愛しい恋人の名前だ。
 ミリエルが暗殺などするはずがない、と抗議したユアンは、そのまま犯罪者の肩を持った共犯者として投獄された。
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