邪竜の鍾愛~聖女の悪姉は竜の騎士に娶られる~
「聖女として生まれたヒロインが王子、宰相、騎士団長、とか、そういう高貴な相手の心を癒して結ばれる恋物語。でもスパイスは必要よね? 聖女には姉がいるの。聖女に嫉妬して聖女を殺そうとする悪姉がね」
 セレナは両手を広げた。それはまるで、演説のようだった。彼女のいう「世界」の話。
「でも、そんな醜い悪姉の行為に怒った邪竜が、クライマックスで復活するの。怒り狂った邪竜に悪姉は食われる。聖女は仲間たちと邪竜を倒して、世界はハッピーエンド。でも、その邪竜の心を癒し、浄化することで名無しの邪竜ルートに行けるのよ。実質ハーレムルートって呼ばれてるそのルートでだけ、私は女王になるの」
 言い終えて、はあ、と満足げに息を吐き……いいや、息を荒げたセレナは、ミリエルの反応を待つようにミリエルを見下ろした。
「ね、いいでしょう?」
 むふ、とリスのような仕草で顔に手をやるセレナ。ミリエルは、ぐ、と縛られた手を握りしめた。なにを言っているのか、最初から最後までわからなかった。
 でも、けれど……一つだけ言えることは、セレナのそんな満足のためだけに、ミリエルの恋人は殺されたのだ、ということだった。ミリエルの胸の内に、ふつふつとした怒りが蘇る。
「ばかげてるわ」
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