邪竜の鍾愛~聖女の悪姉は竜の騎士に娶られる~
 そもそも、セレナが使うのはミリエルと同じ、聖なる魔力ではなかったか。
 ミリエルの聖なる魔力でできることは、汚れたものを浄化したり、人を癒したりすることだけだ。
 セレナの聖なる魔力の力がミリエルのそれより大きいとして、できることがミリエルとそう変わるものだろうか。
 見れば兵士の様子もおかしい。どうして気付かなかったのだろう。
 どこかうつろな目は魅了魔法にかかった人間のそれによく似ている。それに、考えてみればこんなにはっきりと声を出しているのに、護衛も、距離があるとはいえ周囲の、「生贄儀式」を遂行するためにここにいる教会の人間が、セレナの妄言を止めないのも不思議だ。
 ──それは、両親にも通じる特徴だった。
 どれだけセレナが理不尽なことを言っても、セレナを無条件に信頼する両親の目は、いつもどこか暗く陰っていた。
 まさか、他の人も、両親も──この魅了魔法のようなものにかかっていたというのだろうか。
「そろそろ時間ね、飛び降りなさい、お姉様」
 セレナの言葉を、身体が勝手に叶えようとする。ミリエルの脚がゆっくりと立ちあがり、板の張られただけの台を進んでいく。
 一歩一歩、ただてくてくと歩くように。火口からあふれる熱気が強い。
 じりじりと肌を焼く熱風がミリエルの髪を噴き上げる。
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