邪竜の鍾愛~聖女の悪姉は竜の騎士に娶られる~
 ミリエルは、聖女と言うには不品行な妹の不始末をすべて放り投げられ、罪も泥もかぶって生きていた。
 聖女の悪姉というのが、20歳になるミリエルの通り名だ。
 けれど、ユアンは──幼馴染で騎士のユアンだけは、ミリエルの無実をいつも信じて、調べて、本当のことを知ってくれた。そして、憐れんで、労わってくれた。
 そこに同情以外の感情があるだなんて思わない。
 けれど、この想いを、膨らみ切って、ふとしたときにあふれてしまいそうなこの初恋を、ただだまって胸の内にしまうことなど、もはやできなかった。
 魔物の大量発生──スタンピードを抑え込み、この国を平和へと導いた救国の英雄である騎士、ユアン・ミーシャ。その彼は、教会の象徴である聖女セレナとの婚姻を望まれていると聞いている。
 ユアンまでが妹のものになる。その事実に、ミリエルの心は張り裂けそうに痛んだ。これだけは、耐えられそうになかった。
 だから、せめてこの恋だけはここに置いていこう、と思ったのだ。そうすれば、きっとミリエルはこれからも聖女の「はきだめ」として生きて行けると思ったから。
 そうして口にした言葉──「愛している」は本当に単純な、どこまでも透明な一言だった。
 ユアンは驚いている。そうだろう、と思った。誰も彼も、聖女のはきだめでしかないミリエルに愛を打ち明けられたって、困ってしまうはずだ。
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