邪竜の鍾愛~聖女の悪姉は竜の騎士に娶られる~
 はっと自分を包むものに目を向ける。
 そこにあったのは炎のような大きい、赤い目だった。つややかな鱗は漆黒で、背には大きな翼が映えている。おとぎ話や神話の挿絵と同じ姿がそこにある。つまりは、黒い鱗の巨大な竜が、ミリエルを抱きかかえているのだった。
「邪竜様!」
 遠くで砂糖菓子のような声が響く。
 ああ──ああ──誰に言われなくてもわかる、『彼』は──。
「ユアン……!」
 ミリエルの目から、ぽろりと涙が零れ落ちる。どうしてそんな姿をしているの、とか、死んだんじゃなかったの、とか、聞きたいことはたくさんあった。けれど、今はそんなことより、ユアンとまた会えたことが何よりうれしく、大切なことだった。
 抱き着いた鱗はひんやり冷たく、その大きな口から漏れ出る吐息からはユアンの匂いがした。

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