邪竜の鍾愛~聖女の悪姉は竜の騎士に娶られる~
「聖女だけ? それじゃあ、やっぱり」
 ──あの女は聖女じゃない。
「……?」
 聖女じゃない?それでも、セレナはたしかに教会に見とめられた聖なる魔力を持つ今代の聖女だ。どういうことなの、とミリエルがユアンに尋ねようとした時だった。
 きいん、という耳鳴りのような音がして、と同時に白い光の糸が束となってミリエルに襲い掛かってきたのだ。
 ──ミリー、ちょっとこっちにいてね。
「ユアン!」
 ユアンが体の角度を変え、腹の下にミリエルをかばうように体を丸めた。ユアンがミリエルをかばってくれたおかげでミリエルは無傷だけれど、気が気ではなかった。
 だって、どう見たって、あの魔法の威力は人ひとりくらい簡単に殺傷できるものだった。光を集めて熱で焼き焦がす、聖なる魔法に唯一ある攻撃魔法。
 それがユアンに直撃したのだ。
「どうしてその女をかばうの! 邪竜様!」
「セレナ、何を……っ」
「そう、そうなのね、バグが起きてるのね? じゃあ私の魔法で浄化しなきゃ。聖なる魔力で浄化して、正気に戻してあげる!」
「やめて……ッ!」
 セレナの手のうちに、また光が集まり始める。ミリエルにはそれが浄化魔法には見えなかった。憎しみなど、邪心ある心で行使した浄化は、他者を傷付ける光の刃となる。それが聖なる魔法のたったひとつの攻撃方法なのだ。
 セレナの魔力量はおそらく膨大だ。そうでなければあんなに大きな光の球が生まれるはずがない。今や両手で抱えるほどにもなった光が、セレナの手から放たれる。
 あんなものがユアンにあたって無事であるはずがない。
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