邪竜の鍾愛~聖女の悪姉は竜の騎士に娶られる~
 怒声を張り上げ、金髪を肩口で切りそろえた、鷲色の目の青年がこちらへ駆け寄ってきた。
 あっとミリエルが声を上げる。彼を守るように騎士団長と宰相が走ってくるのが見える。国の要人に囲まれたその青年は、ミリエルの見間違いでなければ、この国の第一王子にして王太子であるルキウス・ポウル・アトルリエだった。
 護衛兵と宰相、騎士団長に囲まれた王太子ルキウスは、ユアンに抱かれたミリエルに気付き、一瞬恐れるように目を見開いた後、ぐっと唇を噛んでセレナに向き直った。
「どういうことだ! どうして神竜様に攻撃をしたんだ、聖女セレナ!」
「ルキウス様! ああよかった! あたし、今邪竜を浄化しようとしていたところですの。それをあの『悪姉』が邪魔して……」
「浄化!? 恐れ多くも神竜様に魔法をかけようとしたのか!?」
「……何で怒っているんですか? ルキウス様」
 セレナは不思議そうな顔をしてルキウスたちを見上げる。しかし、見つめられた彼らはセレナに魅了されるどころかセレナの言葉に呆れたように──いいや、憤っているようにも見える──あるいは絶望したように、彼女を見下ろした。
 ──ほら、強い感情が、魅了魔法の効果を打ち消した。もう、あの女の味方はいないよ。
 ユアンの言葉に、ミリエルははっと王太子たちの様子を確認した。たしかに、彼らからいつも感じるぼやけたあざけりのようなものは今はない。
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