邪竜の鍾愛~聖女の悪姉は竜の騎士に娶られる~
 現れたユアンの姿を目にしたセレナが叫ぶ。
「あ、あんた……あの騎士!? 今朝処刑した……。黒髪、赤目、あ、たしかに、たしかに、スチル通りの……!」
「セレナ! ……ッ! 騎士団長、いや、誰でもいい! この女を黙らせろ!」
 顔を真っ赤にしながらルキウスがセレナを怒鳴りつける。
 それを見ながら、ミリエルは不思議と心が凪いでいくのを感じていた。
(どうして、私、この人たちが怖かったのかしら)
 ミリエルを虐げた周りの人が怖かったし、権力者も全員セレナの味方だから恐ろしかった。それなのに、今、その記憶がどうでもいいもののように思えてくる。
 だって、こうしてユアンの登場に怯えて、あるいはユアンへしたことに対する叱責を受けている人たちの、どこに怯える必要があるのだろう。
 もちろん、悲しかった何もかもが本当のことで、ミリエルを傷付けたことに変わりはないのだけれど、それでも、彼らに怯えていたことがばかばかしく思えてきているのだ。
「ミリー?」
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