邪竜の鍾愛~聖女の悪姉は竜の騎士に娶られる~
 ……過って、目を伏せた。
 そこに、ミリエルのことを愛した者はいなかった。魅了されていたのだとしても、その行為は同じだ。
 ユアンへ向けるものほどやさしい感情を抱けるものはいない。
 きっと、本当に聖人なら、残りたいと思うのだろう。憐れむのだろう。けれど、ミリエルはどこまで行ってもユアンの恋人でいたかったから、そうしたくないと思った。
 セレナが聖女ではなかったように、ミリエルも、生まれ変わりというだけで、きっと本当に聖女にはなりえない。
「攫っていい? ミリー。君がついてきてくれないと、僕はこの国を滅ぼすかも」
 その想いの深さも苛烈さも、もう愛しいとしか思えない。ミリエルの選択肢を潰してくれる優しさが、やわらかくミリエルの胸を突く。だから、ミリエルは想いを込めてユアンの胸に抱き着いた。
「攫って──ユアン」
 ──私の、大好きなひと。
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