邪竜の鍾愛~聖女の悪姉は竜の騎士に娶られる~
それを考えると、喉元に何かがつかえているような気がした。
そんな時、当代の聖女という名ばかりの称号を持つ娘に突き飛ばされ、自分は雨上がりの濡れた泥の中に転び落ちた。
ぬかるんでどろどろになった地面で汚らしくなった自分を見て、当代の聖女「セレナ」は意地の悪い顔で笑っていた。
お前のようなものが聖女を名乗るな。そう言ってやろうとしたが、それを止めたのはこの娘に虐げられているはずの聖女の生まれ変わりの少女だった。
「あなた、大丈夫? セレナ、謝りなさい!」
「あら、お姉様。あたしの歩く道をふさいでいたんだもの。突き飛ばされても文句は言えないわ」
「この人はただ立っていただけよ。わざわざ近寄って突飛ばしたのはあなたじゃない」
きっ、と強いまなざしを向けた少女に、名ばかりの聖女もどきはあざけるように笑って見せた。
「そうだとしても──『はきだめ』の話なんか、誰も信じないわよ。それとも、ここで大声を出されたい? そいつを暴漢として突き出しましょうか」
「……」
お姉様、と呼ばれていたからには、彼女は「聖女もどき」の姉なのだろう。
たしかに、銀の髪と青い目という色彩は、姉妹らしくよく似ていた。
……もっとも、表情に滲み出る性格は、まったく違うようだが。
口ごもった聖女の生まれ変わりを尻目に、高笑いしながら去って行く「聖女もどき」はとても聖女の器ではない。
聖女というのが役職名であり、称号でしかない、とはいえ、よくもここまで汚されたものだと思った。
そんな時、当代の聖女という名ばかりの称号を持つ娘に突き飛ばされ、自分は雨上がりの濡れた泥の中に転び落ちた。
ぬかるんでどろどろになった地面で汚らしくなった自分を見て、当代の聖女「セレナ」は意地の悪い顔で笑っていた。
お前のようなものが聖女を名乗るな。そう言ってやろうとしたが、それを止めたのはこの娘に虐げられているはずの聖女の生まれ変わりの少女だった。
「あなた、大丈夫? セレナ、謝りなさい!」
「あら、お姉様。あたしの歩く道をふさいでいたんだもの。突き飛ばされても文句は言えないわ」
「この人はただ立っていただけよ。わざわざ近寄って突飛ばしたのはあなたじゃない」
きっ、と強いまなざしを向けた少女に、名ばかりの聖女もどきはあざけるように笑って見せた。
「そうだとしても──『はきだめ』の話なんか、誰も信じないわよ。それとも、ここで大声を出されたい? そいつを暴漢として突き出しましょうか」
「……」
お姉様、と呼ばれていたからには、彼女は「聖女もどき」の姉なのだろう。
たしかに、銀の髪と青い目という色彩は、姉妹らしくよく似ていた。
……もっとも、表情に滲み出る性格は、まったく違うようだが。
口ごもった聖女の生まれ変わりを尻目に、高笑いしながら去って行く「聖女もどき」はとても聖女の器ではない。
聖女というのが役職名であり、称号でしかない、とはいえ、よくもここまで汚されたものだと思った。