邪竜の鍾愛~聖女の悪姉は竜の騎士に娶られる~
 もう彼女を殺して輪廻の輪に戻そうとは思わない。彼女を、ミリエルを幸せにするために、「人間」になろう。と思った。
 人間のふりをして、彼女のために生きよう、と。
 人間としての地位を得るため、魔物の大侵攻、スタンピードを収束させた。
 竜である自分には苦もないことだった。
 ミリエルとは何度も会って会話して、互いに好意を向けあう仲になった。
 ミリエルから愛を告白されたときは、思わず咆哮して喜びを表したいと思うほど嬉しかった。
 地位と権力を得た。これでミリエルを幸せにできる。
 あの、「騎士ユアンを今代聖女の夫に」などというくだらない噂を払しょくして、ミリエルと幸せに生きられる、と思ったのに。
 ユアンは今、自分の前足の中にいる、広い空からの眺めに目を輝かせている愛しいミリエルを見下ろした。
 ユアンには、ミリエル以外がどうでもよかった。
 きっと、こんな自分をミリエルは怖がるだろう。そう思っていたのに、ミリエルはユアンを受け入れて、それだけではなくついてきてくれた。
 ユアンは、ミリエルを幸せにする、と彼女を抱く前足に力を込めた。
 これは、誓いだった。
「ユアン、どうしたの?」
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