邪竜の鍾愛~聖女の悪姉は竜の騎士に娶られる~
「私も料理くらいできるわ」
「だめだよ。今が大切な時だって、お医者さんも言ったじゃないか」
「それは、そうだけど……」
「ね、だからおとなしく、僕に甘やかされていて」
 ちゅ、とこめかみに口付けられて、ミリエルはむう、と唇を尖らせるフリをした。
「かわいい唇だね」
 ちゅ、と唇にもキスを落とされて、ミリエルの頬が赤くなる。ねだったみたいで恥ずかしい。
 耳の後ろを熱くするミリエルに対して、ユアンは相変わらず嬉しそうだ。炎のようなあたたかい瞳が、ミリエルを映してゆるりと細まる。
「もう、ひとりの体じゃないんだから」
「ええ……」
 まだ膨らんでいない腹を撫でて、ユアンが愛しげな声を落とす。これはきっと子煩悩になるわね、なんて想像して、ミリエルはふふ、と笑った。
 まだ薄っぺらなおなかには、ユアンとの子が宿っている。宝物のような、小さな命。
「ミリエル、笑ってるの? かわいいね」
「今日も明日も明後日も、あなたが好きだわと思ったから、笑ってるのよ」
 ミリエルがそう言うと、ユアンは一瞬、目を見開いた。人とは違う縦に長い瞳孔が丸くなるのがかわいらしい。そういうところも好きだ。
< 49 / 50 >

この作品をシェア

pagetop