邪竜の鍾愛~聖女の悪姉は竜の騎士に娶られる~
 だけど、これは幻でも妄想でもない。もちろん、夢でも。
 どれだけそうしていただろう。酸欠になったミリエルを解放して、ユアンはその炎色の目をとろりと蜂蜜のように蕩けさせた。
「これで、君はの僕の恋人だ。……僕だけの、宝だ」
「宝……」
 ミリエルは、ぼんやりとした酸欠の頭で、ユアンの言葉を繰り返した。
 繰り返して、はにかむように笑った。大切なものを胸にしまいこむように、ユアンの言葉を噛み締める。
「ミリー、明日、スタンピードの件で功労者としての受勲式が終わったら、王に君との結婚を願い出るよ。そうしたら、もう君は『聖女のはきだめ』なんてする必要はない」
「うん……うん……ユアン」
「待っていて。ミリー。君には、もう、幸せな未来視か用意しない」
 ユアンの優しい言葉が、しんしんと、星の光のように降ってくる。
 ふと空を見上げると、本当に星が降っていた。流星群だ。
 そうやって降る雪はユアンの言葉のようで、風に押し上げられた雲から現れた月は、ユアンのように優しい光を纏っていた。
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