先輩の心、私でも晴らせますか…?
また、雨が降っている。
雨が降ったらまた行くと…向井先輩と話していたっけ。
「……」
放課後、私は用事の無い教室棟に向かった。
「あ、美久ちゃん」
「…先輩、こんにちは」
やっぱり居た。
向井先輩。
いつもの明るく元気な様子は見受けられず、今日もまた退屈そうな…気だるそうな…悲しそうな…そんな表情だ。
「来てくれてありがとう」
「…雨が降ったら行くって、言ったので」
「真面目なんだね、美久ちゃん」
ほんの少しだけ口角を上げた先輩に、ゆっくりと手招きされる。
窓にもたれかかる彼の横に向かい…そっと隣に立った。
「今日も笑顔振り撒いて、ニコニコと手を振ることに疲れたよ」
「……」
どう返答するのが正解か分からない。
黙り込んでいると、先輩はまた私の頭をポンポンと叩いた。
「俺に興味が無い子と一緒に居るのが、こんなにも落ち着くなんて知らなかった」
「……」
「初めてだよ、美久ちゃんみたいな子」
「……」
全く…未知だ。
恋もしていないし、そもそも男子と関りが無い私には…未知すぎて、どうすれば良いのか分からない。
その時、教室棟の階段から、誰かが降りてくる音が聞こえて来た。
「…あっ」
その足音が誰か分からないけれど、向井先輩と一緒にいる光景を見られるのはまずい…そう思った。
「…先輩、帰ります」
「何で…見られるとまずいの?」
「先輩は…人気ですから…」
そんな会話を小声でしていると、その足音は私たちの姿を見つけて止まる。