先輩の心、私でも晴らせますか…?


「おい、止めろ」



いつも笑っていて優しそうな…ではなく、眉間に皺を寄せて、睨むような目付きをしている向井先輩がそこに立っていた。



「せ、先輩…!!」



私にチョークを投げていた女子たちは一斉に手を止める。
そして先輩に向かって甘い言葉を投げかけた。



「せんぱ~い、どうしたんですか? 2年の教室まで来て!」
「誰かに用事ですか~?」



虫唾が走る…女子たちの態度に。


目を閉じ、下を向いていると…向井先輩は聞いたことのないような声で、大きく叫んだ。



「お前らマジで何してんだよ!! 今更猫被っても意味ねぇよ、全部見ているんだからよ!!」



そんな声に…梓を始め、女子も男子も…みんなが固まり、私たちのクラスには静寂が訪れる。



「…いじめたいなら、俺にやれよ。俺の上履き、捨てても良いし。体操服を切り裂いても良い。菊の花も、チョークも何もかも、全部俺にやってみろよ!!!」

「ほら、昨日の君。全ての元凶だろ? ほら…チョークこっちに投げてみな。ほら、早く」

「……」



梓に向かって指を差した向井先輩。
当の本人は、震えたまま固まっていた。



「…んだよ、何だよ…!!! 俺には投げられないのかよ!! しょうもない人間だな、本当に!!」



先輩は教室の扉を1回殴り、中に入ってくる。
そして私の腕を握り、教室から連れ出された。



チョークで制服が汚れている私。
捕まれていない反対の手で軽く払っていると、担任の先生が通りかかった。



「あれ、向井と内山。どうした?」
「あ、先生。内山さん、クラスでいじめられていたので、保健室に連れて行きます。先生は自分のクラスを収拾して下さい」
「いじめ……収拾…?」


向井先輩の言葉に首を捻りながら教室を覗く。
机は乱れ、チョークにまみれた教室の床に、先生の叫び声が響き渡った。


「なんだこりゃあ!? おい、お前ら!! 全員席に着け馬鹿共!!!!」


そんな先生の声を聞いて頷いた先輩。



「…こっち、行こう」



先輩は私の腕を握ったまま、保健室に向かって走った。




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