先輩の心、私でも晴らせますか…?
雨と先輩
放課後の教室棟。
忘れ物をしたことを思い出して、教室に戻っている途中だった。
梅雨でジメジメした廊下。
窓を閉め切り、風通りの悪い教室棟に、何だか動悸がしてくる…。
そんな3年の教室が並ぶ教室棟の1階。
誰もいないその廊下で向井先輩は1人、立ったまま窓の外を眺めていた。
……見てはいけないものを見た。
そう思った時には…もう遅かった。
「……見た?」
「あ、えっと………何も見ていません」
「嘘つかないでよ」
口角を少しだけ上げてこちらを向いた向井先輩。
…やってしまった…。
率直にそう感じた。
「君、何年生?」
「…2年です」
「名前は?」
「内山美久です」
「美久ちゃんね」
私の名前を呼び、更に近付いてくる。
先輩はそっと私の頭に触れ…囁くように言った。
「俺がこんな顔してたこと、絶対に言わないでよ」
「い、言いません……」
「うん、良い子だね」
何度か私の頭をポンポンと叩き、何事も無かったかのように昇降口の方に向かって歩き始めた先輩。
「…な、何……」
今、何が起こったのか。
それすら理解できないまま、次こそ忘れ物を取りに教室へ向かった。