先輩の心、私でも晴らせますか…?
全校集会。
体育館に生徒が集まったのを見計らって、私は先生とこっそり体育館に入った。
後ろの角で立っている先生達に隠れるように…腰を掛ける。
たったそれだけなのに。
動悸がして苦しい。
逃げ出したい衝動に駆られる…。
「内山、無理だけはするな」
「……はい」
傍で気にかけてくれる保健室の先生。
実はこの人の名前を知らないけど……先生が近くに居るってだけで安心感を覚える。
「……続きまして、生徒会長挨拶」
先生たちの話が終わり、生徒会長の番になった。
ステージに登壇する向井先輩。
いつも笑って、ニコニコしていた先輩はもう居ない。
少しだけ眉間に皺を寄せ、口を噛み……睨むような目つきで全体を見回した。
「……今日は、先生たちの許可を得たので、とても大切な話をします」
冷たく低い声。
向井先輩の姿を見てキャッキャとしていた女子たちの動きも固まる...。
「まずは、これまで俺に憧れを抱き、様々箇所で応援をしてくれた皆さん、ありがとうございました」
「その声援等に答えようと、俺もニコニコと頑張って来ましたが、 ……正直、それに限界を感じていたのです」
「俺がそんな状況の時、密かに心配してくれる人が現れた。……知っている人も多いと思う。……君たちが一致団結して、不登校にまで追い込んだ子だよ」
語尾を強め、吐き捨てるように言い放つ。
重く苦しい空気に、唾を飲むのすら躊躇うほどだ。
「内山、大丈夫か?」
「……はい」
いつの間にか隣に座っていた保健室の先生。
気にかけて、耳元でそう囁いてくれる。
今までの生徒会長挨拶からは考えられない…向井先輩の様子。
女子も男子も…皆が呆然と…先輩の姿を眺めていた。
「誰の許可を得て学校に来られなくなるまで追い込んだ? 俺が望んでいたとでも思った? それとも妬みや恨みから来る幼稚な感情? 大人数で1人をいじめて、楽しかった?」
「彼女は普段の俺に一切興味が無い子だよ。俺が疲れたと思っていた時に現れたその子。素の自分でいられることが嬉しくてね。…俺が望んだんだ。傍に居てほしいと」
その言葉に、どこからともなく女子の悲鳴が上がる。
…逃げ出したい。
そんな衝動に駆られるが、先輩が継いだ言葉を聞き、そんな思いが消えた。
「だから……俺はいじめに関わった皆を絶対に許さない。…特に、ね? 山寺梓」
唐突に梓の名前を呼んだ先輩。
2年2組の列にいた梓は「え?」と小さく声を上げ、体を大きく震わした。
「俺も彼女もいじめをやり返すってことはしないけれど。全ての元凶であることを自覚し、反省はした方が良いよ。…では、俺からは以上です」
そう言って向井先輩はステージから降りる。
名指しされた梓は遠くから見ても分かるくらい大きく震えていた。
そしてそのまま……意識を失い倒れた。
「っあ、だから名指しは止めろとあれほど…!!!!」
倒れた梓を見て急いで立ち上がる保健室の先生。
「名指しはするなと向井には言っていたんだがな…。あ、内山。お前、保健室戻れ」
そんな言葉を残して、先生は梓の元へ駆け寄って行った。
「……」
ざわつく体育館。
真顔で生徒の列を睨む、向井先輩。
「……………」
耐えられない。
この空気。
先生に言われた通り、一足先に保健室に戻ることにした。