真夜中プラトニック
 結局この後やって来たテキーラのロックは半分ほど飲んだところで田宮に奪われ、代わりに冷たい水を押し付けられた。

 支えられながらタクシーに乗ったあたりで記憶が曖昧になり、気づいたら自室のベッドの上だった。

 しかも、すぐそばに陽咲がいる。理性がきかなくなりそうなのがこわくて、一緒に寝る夜も、ずっと俺の部屋には入れないようにしていたのに。

 陽咲の部屋には陽葵たちの写真が飾ってあったから、勝手に見張ってもらっているつもりになって、なんとか理性的でいられた。まあ、危ないときは何度もあったけれど。

 でも今、俺の部屋に、陽咲がいる。……ああ、これは夢なのかもしれない。俺の妄想が見せた、まぼろしの陽咲。

 俺はまさに夢見心地で、いとおしい存在を眺めた。


「……ひさき?」
「はい、陽咲です。お水、飲めますか?」


 言いながら俺の頭上に手を伸ばそうとした彼女を、引き寄せた。

 倒れ込んできた陽咲の顔を、じっと見つめる。じわじわと赤くなっていく頬が、熟れた果実みたいに美味しそうだ。

 ああ、かわいいな。さわりたい。キスがしたい。

 本当は、ずっとしたかった。このやわらかそうな唇に噛みついたら、どれほど甘美な味がするんだろう。


「……ひさき」


 これは、夢だ。俺の欲望が具現化した、都合のいい夢。

 だから、我慢しなかった。名前を呼んで、首のうしろに回した手に力を込めて引き寄せて、唇を重ねた。

 一度触れてしまったら、もう、止まらなくなる。夢の中の陽咲は抵抗なんてしなくて、それどころか積極的に舌を絡めて擦り寄ってくるから、たまらなかった。
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