真夜中プラトニック
 閉じられたドアを、ほとんど放心状態で見つめる。

 それから私は、ベッドに横たわったまま深くため息を吐いた。


「……たいへんなことになっちゃった」


 ポツリとつぶやいた声は、ひとりきりの病室にとけて消える。

 自分がこうして病院のお世話になってしまったことも、なぜか朔夜さんと同居する話になったことも……。

 でもきっと、さっきは私が倒れたことにびっくりして朔夜さんの庇護欲が暴走しちゃっただけで、落ちついたら考え直してくれる……よね?

 これまでずっと兄とふたりきりで生活していたといえど、家族でもない男性とひとつ屋根の下で暮らすなんて、ハードルが高すぎる。

 それに……実を言うと、朔夜さんは私の初恋のひとなのだ。
 彼が私なんかを相手にするわけがないととっくに見切りをつけた想いだけれど、こんな事態になってしまって焦らないわけがない。

 一刻も早く、朔夜さんが冷静になってくれますように。

 若干失礼なことを考える私は、掛け布団の中で入院着の胸もとを握りしめながら目を閉じる。

 そのこぶしの下、身体の内側では、心臓がやけにうるさく鼓動していた。
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