真夜中プラトニック
2.ワンピースと涙
十月の後半に職場で倒れたあの日から、約一週間。
私は今、心の底から緊張しながらとあるマンションの一室にいた。
「悪いな。出せるものがコーヒーしかないんだが、いいか?」
キッチンに立ってコーヒーの準備をしてくれている朔夜さんの言葉に、広々としたリビングの高級そうな革張りソファの端っこで縮こまっている私は「お構いなく……」とか細く返す。
二客のコーヒーカップとソーサーを持って目の前のローテーブルに置いてくれた朔夜さんが、そんな私の様子に苦笑した。
「まるで借りてきた猫だな。今日からここは、きみの家にもなるんだけど」
「うぅ……」
そうは言っても、「ハイそうですか」でくつろげるわけなんてない。
私はコーヒーを勧めてくれた朔夜さんにお礼を言って、砂糖とミルクを入れたカップにちびりと口をつけた。
ここは、超高層マンションの一室。二十一階にある朔夜さんの住まい、二LDKの部屋である。
つい二時間ほど前に不動産会社の担当者と退去の立ち会いを終えた私は、車で迎えに来てくれた朔夜さんとこのマンションへとやって来た。途中、スーパーで食材の買い出しも済ませている。
私の荷物の運び込みはすでに完了していて、本当にもう、今日から住める状態だ。
ちなみにここでは使わないけれど次に決めた家に持ち込みたい家具や電化製品は、朔夜さんがもともと借りていたというトランクルームに置かせてもらっている。何から何まで至れり尽くせりである。