真夜中プラトニック
 ……結局、同居の日を迎えてしまった……。
 絶対にどこかで、我に返ってくれるはずだと思っていたのに。大企業の若き専務の行動力、恐るべしである。

 朔夜さんの住む部屋はシックな黒っぽいインテリアで統一されていて、物が少なく殺風景なほどだった。
 こんなオシャレな家に今日から居候させてもらうなんて、本当に恐れおおい。コンシェルジュがいるマンションも初めて見たし。


「基本的に俺は出社するけど、在宅ワークの日もあると思う。どちらにしろ陽咲は好きに過ごしてくれればいいから」
「好きに…………」


 難しい。朔夜さんが優しすぎて、逆に難しい。

 遠い目で呆ける私にまた苦く笑って、ソファではなくラグに直接座っている朔夜さんもコーヒーをひと口飲む。


「陽咲は申し訳ないとか後ろめたいとか考えてるんだろうけど、気にするな。俺はきみのためにとか、そんなたいそうなことを考えてるわけじゃない。ただ、俺がそうしたいから……俺が安心したいから、勝手にしてるだけだ。だから陽咲は、なにも気にしなくていいんだ。きみをここに閉じ込めるのは、全部、俺の我儘なんだ」
「そんな……」


 まるで懺悔するみたいに目を伏せて話す彼に、ようやく私はしっかりと視線を合わせた。


「閉じ込められたなんて思ってないですから、そんなこと言わないでください。えと、私を拾ってくださって本当にありがとうございます、朔夜さん」
「……『拾ってくださって』って」


 ふ、と朔夜さんが口もとを緩める。その表情の変化にホッとして、私の方も肩の力が抜けた。

 そうだ。親切を必要以上に遠慮するのは、相手に失礼なことだと教えられたんだ。
 今は朔夜さんに甘えよう。前向きに、過ごそう。

 まだ、傷は癒えないけれど。
 天国にいる両親と兄に、心配をかけない生き方をしたいから。
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