真夜中プラトニック
「うぅ、お兄ちゃ……あいたい、会いたいよぉ……」


 あふれる涙が朔夜さんのパジャマの肩口を濡らしているとわかっているのに、どうしても止められなかった。

 朔夜さんは宥めるように私の頭を撫でながら、ただ黙って抱きしめてくれている。

 その優しさが、余計に涙を後押しした。


「……陽咲、ここで寝るつもりだったのか?」


 どれほど時間が経ったのだろう。

 私の嗚咽が収まってきたタイミングで僅かに体を離した朔夜さんが、あくまで穏やかな声音で尋ねた。

 すん、と鼻をすすりながら、私は小さくうなずく。


「はい……寝る場所を変えたら、気分も変わって、眠れるかもって」
「そうか」


 短く返して、朔夜さんは泣き腫らした私の目もとをそっと親指で撫でる。


「じゃあ、陽咲が眠たくなるまで話をしよう」


 え、と私が聞き返す前に彼は立ち上がり、先ほど自分でつけたリビングの照明を落として常夜灯にする。

 朔夜さんはそれから、ほんの少し距離を空けて私の隣に腰を下ろした。


「なんでもいい。仕事のことでも友達のことでも、なんでも。思いついたまま、聞かせて」
「え、でも……朔夜さん、明日は仕事……」


 もう0時は回っているはずだから、正確には今日だけど。休職中の私はともかく、朔夜さんを夜更かしさせてしまうのは良くない。

 たくさん泣いてぼーっとする頭でもそれはわかったから、躊躇したのに。
 朔夜さんは、仄暗い常夜灯の下でもわかるやわらかな表情で私を見つめる。


「俺はいつも、このくらいの時間は起きてることも多いから」


 だから気にするな、と微笑まれて、胸が締めつけられるように苦しくなる。

 本当はいけないことだとわかっているのに、私はその優しさに甘えた。
 もぞ、と姿勢を正して、ソファの上で体育座りになる。
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