真夜中プラトニック
3.恋と太陽
許されない恋を、している。
「あのっ、秋月専務……!」
社内の廊下で声をかけられ、振り返った。
足早に近づいてくるのは、秘書室に所属する若手女性社員だ。
彼女は立ち止まった俺の目の前まで来ると、緩くウェーブがかった髪を耳にかけながら見上げてくる。
「その、先日はありがとうございました。困っていたので本当に助かって……」
「……ああ、」
一瞬なんのことかわからなかったが、少し考えて思い出す。
数日前、社内の休憩スペースで男性社員に強引に迫られていた彼女を、それとなく相手から引き離したことがあった。
そのときも礼は言われたし、別に改めて呼び止められて感謝されることでもない。だから俺は、素直にそれを口にする。
「気にしなくていい。それじゃあ」
「あっ、待ってください……!」
再び歩き出そうとした俺のジャケットの裾を、彼女の手がつまんで引き止めた。
思わず顔をひそめてしまいながら、俺はまた彼女を見た。
「まだなにか?」
淡々としたこちらの問いかけで束の間怯んだように見えたが、気を取り直したように彼女は笑みを浮かべる。
「その、お礼をしたくて……もし良かったら、なにかご馳走させてください。お店ならいろいろ知ってますし、それか、私実は料理が趣味で──」
「必要ない」
最後まで聞かないまま、ハッキリと言い放った。
彼女の顔がこわばる。それに構わず、俺は続けた。
「もうこの話は終わりだ。きみも仕事に戻りなさい」
今度こそ歩き出して、ジャケットを掴む指先を振り切った。
ため息をつきながら曲がった角の先に立っていた人物に気づき、俺は思いきり眉根を寄せる。