真夜中プラトニック
「……社長、朔夜です」


 呼びかけた声に返ってきた「入れ」のひと言で、ドアノブに手をかける。


「失礼します」


 うしろ手に閉めたドアの正面、執務机についている父が手を止めてこちらを見ているのに気づき、ひそかにゴクリと唾を飲み込んだ。


「お忙しいところ、時間をいただきありがとうございます。今回は、個人的な報告があって参りました」
「なんだ」


 事前にアポは取っていたとはいえ、礼を伝える。

 父は、何を考えているのかわからない無表情だった。昔から見慣れた、相変わらずの態度。

 それでもこの人は一応は自分の父親で、そして自身の立場のこともある。絶対に報告すべきだという田宮の言葉を仕方なく受け入れ、今俺はここにいる。


「実は一週間ほど前から、一緒に住んでいる女性がいます」
「……なに?」


 ぴく、と父の眉根が訝しげに動いた。俺はそのまま続ける。


「彼女は数ヶ月前に亡くなった俺の友人の妹で、以前からの顔見知りでした。唯一の家族だった友人が亡くなったことで天涯孤独の身となったため、保護者的な立場で庇護しようと俺から同居を持ちかけました」
「その女性というのは、未成年なのか?」
「いえ。現在は二十三歳で、すでに働いています」


 まっすぐにこちらを向いたまま、机に置いた右手の指先で父がコツ、机を叩く。


「ならば、おまえがそこまでしてやる必要はないのでは?」
「彼女は兄を喪ったことで心身ともに憔悴し、いっときは入院するほどでした。今はまだ、ひとりにしておけません」
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