真夜中プラトニック
「朔夜さん、おかえりなさい!」


 玄関を開けるなり視界に映った彼女の笑顔に、俺は心の底から肩の力が抜けるのがわかった。

 ……陽咲は、いつもかわいいな……。

 だらしなく緩みそうになる表情を意識して引き締めつつ、答える。


「……ただいま、陽咲」


 言いながら、玄関ドアを閉める。
 エプロン姿の陽咲はさらに「今日もお疲れさまでした」と穏やかな声音で労ってくれて、今日一日の疲れが急速に癒されていくのを感じた。


「ごはん、ちょうど今できたところなんです。今夜はチキン南蛮と、レンコンとアボカドのサラダにしてみました」
「美味そうだな。すぐ着替えてくる」


 陽咲の口から夕飯の献立を聞いただけで腹が鳴った。

 聞こえたらしい彼女がくすくすと笑っている姿に俺の方も頬が緩むのを自覚しながら、自室へと入る。
 ちなみに彼女の手料理の前で素直な俺の腹が鳴るのはいつものことなので、今さら羞恥心はない。

 着替えた後は洗面所で手洗いうがいを済ませ、ダイニングテーブルに向かい合って陽咲と夕飯をともにした。

 彼女の料理は、優しい味がする。昔からずっと、俺は他のどんな高級店で出される料理より、陽咲の手料理が一番好きだ。
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