真夜中プラトニック
「わかった。すぐ行くから、陽咲は先に寝ていて」


 俺の言葉でふにゃりと破顔した陽咲が、うれしそうにうなずく。

 ふらふらとリビングを出て行った彼女を見送り、歯磨きなどの支度を済ませた。

 廊下を通って陽咲の部屋の前に立つと、軽く深呼吸をしてからドアノブを回す。


「……陽咲?」

 
 キャビネット上にある写真立てを流し見た後、小さな声で呼びながらベッドの端に腰かけた。

 すでに眠っているかと思ったが、俺の声で陽咲が薄く目を開ける。
 常夜灯の薄明かりの中、彼女とたしかに視線が合った。


「……さくやさん、」


 伸びてきた手が、服の裾をくん、と引く。

 その手に導かれるように、俺も陽咲の隣へと横たわった。

 ソファで手を繋ぎながら眠った、あの夜から──俺たちはほとんど毎日、こうして隣り合って眠っている。

 恋人でもない。家族でもない。そんな自分たちがこうして同じベッドで手を取りながら眠ることは、一般的に理解されない、常識から外れたことだとわかっている。

 それでも。
 彼女には、これが必要だった。

 彼女が、壊れてしまわないように──彼女の心と体を、守るために。
 俺は自分の中の葛藤や彼女への劣情を抑えつけて、陽咲が安心して隣で眠ることができる無害な男を演じている。
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