真夜中プラトニック
 は、と息を吐く。

 俺の中に渦巻く激情なんて欠片も気づかないまま、こちらの手を取った陽咲が掴んだ手に頬を擦り寄せ、安堵したように笑う。


「おやすみなさい、朔夜さん」


 眠気のせいだろうか。ここまで積極的なのは初めてで、俺は歯を食いしばりながら「おやすみ」と返した。

 ほんの少し欲を出し、掴まれていない方の手で彼女のやわらかな髪を梳く。

 陽咲は嫌がるどころか、やはり幸福そうに目を細めると、そのままそっとまぶたを下ろしてしまう。

 ほどなくして、穏やかな寝息が聞こえてきた。
 髪を撫でる手は止めないまま、安らいだ表情で眠る彼女の寝顔を眺める俺の脳裏に、つい昨日聞いたばかりのような声がよみがえる。


『──もし俺に何かあったら、陽咲を頼むな』


 いつものようにカラリと笑って。そう言った男は、本当に彼女のそばからいなくなってしまった。

 幼い頃母親が病死し、実の父親ともぎこちない関係を続けていた俺を問答無用で自分の家族と引き合わせて、そして当たり前のようにそのあたたかな輪に加えてくれた、俺の友人。


『あっはは朔夜、でっけー腹の音だな!』
『朔夜さんたくさん食べてくれるから、作り甲斐があってうれしいです』


 いつも明るくて、賑やかで、笑顔で。

 春日兄妹は、俺の太陽みたいな存在だった。
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