真夜中プラトニック
『……陽咲。今回の同居、強引に決めて悪かった。もし本当に無理だと思うなら、今からでも、やめていいから』


 一緒に暮らし始めた初日。退去の立ち会いを終えた陽咲を迎えに行った俺は、彼女を車に乗せる間際そう声をかけた。

 陽咲は、その大きな目をパチパチとまたたかせて。それから、ふわりと笑ったのだ。


『大丈夫ですよ。居候させてもらえるのは本当にありがたいことですし……私は、朔夜さんを信頼していますから』


 その言葉に、俺がどれだけ救われて──そして、胸を抉られたか。

 自分が彼女の中で、頼ってもいい人間だと思われていてうれしい。

 でも俺に、その信頼を受け取る資格はない。
 陽咲に“友人の妹”以上の感情を持っていて、……そして()()()()()()()をしてしまった、俺には。


「んぅ……」


 かすかな声を漏らし、陽咲が身じろぐ。

 けれどまぶたは開くことなく、彼女は依然として眠りの中。

 ぎゅっと掴まれたままの手を引き寄せ、小さな手の甲に唇を寄せた。


「……陽咲」


 好きだ。大好きだ。

 いとおしい。抱きしめたい。キスしたい。
 その白い肌を暴くことを許されたい。俺の想いも劣情もすべてぶつけて注ぎ込んで、身も心も俺のものにしたい。

 でも俺に、そんな資格はないから。


 目を閉じる。彼女の寝息に耳を傾けながら、ただ、願う。

 守りたい。笑っていて欲しい。
 自分は相応しくないと理解しながら、それでも身のほど知らずに手を伸ばそうとしてしまう俺が、打ちのめされるくらいに──どうか一点の曇りもなく、幸せになって欲しい。

 こんな俺の想いを知ったら、きみは一体、どんな顔をするだろうか。

 許されない、恋をしている。

 狂おしいほど強く、恋と呼ぶにはあまりにうしろ暗いその感情に心を焦がしながら、今夜もきみの隣で、身勝手な願いを抱えて眠る。
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