真夜中プラトニック
4.ピアスと自覚
「いやぁ、陽咲さんの料理の腕が素晴らしいことは常々聞き及んでいましたが、お菓子作りもとてもお上手なんですねぇ」
私が焼いたクッキーを片手に、ニコニコと朗らかに笑いながらそう話す男性。
私は思わず照れてしまいながらはにかんだ。
「いえそんな……ありがとうございます。田宮さんのお口に合って良かったです」
ローテーブルを挟んでラグの上に直接座る私と田宮さんは、にこやかに笑い合う。
すると私の右隣に座る朔夜さんが不機嫌そうに口を開いた。
「……よし。じゃあ田宮はもう帰れ」
「朔夜さん!?」
「ひどいですねぇ専務、僕ここに来てまだ二十分しか経ってませんが? そしてこの後あなたと一緒にお仕事もあるんですが?」
相変わらず朗らかに笑う田宮さんと、そんな彼に隠すことなくしかめっ面を向ける朔夜さんと、そんなふたりの様子をおろおろと眺める私。
今日は土曜日で、けれども朔夜さんは夕方から取引先の周年記念パーティーに出席しなければならないらしい。
秘書である田宮さんも同行するようで、直接この家まで迎えに来てくれたんだけど……田宮さんが現れたのは、朔夜さんに伝えていたよりも一時間も早い時間で。
どうやら私の様子を気にかけてくれていたらしく、こうしてゆっくり話す時間を確保するため早めに来てくれたようだ。……朔夜さんは、とても不満そうにしているけれど。
ちょうど午前中にクッキーを作ったから、お茶請けになって良かった。気にかけてくれていたのも、ありがたいことだ。
「専務、そろそろお着替えをされては? あまりのんびりしていると時間ギリギリになってしまいますよ」
「む……」
田宮さんの言葉で朔夜さんが不満げに顔を歪めて、けれどもしぶしぶといった様子で立ち上がる。
そういえば、田宮さんは朔夜さんより四つほど年上なのだったか。何だかんだで、朔夜さんは田宮さんに頭が上がらないのかもしれない。