真夜中プラトニック
「田宮、陽咲に余計なことを言うなよ。陽咲は田宮に何かされたら遠慮なく大きな声で俺を呼ぶんだ」


 自室で支度をするためリビングを出る間際、朔夜さんはそんなことを言った。

『余計なことってなんだろう……?』と考える私の横で、田宮さんは「僕の扱いひどくないですか?」と抗議している。朔夜さんはそれには応えず行ってしまった。


「陽咲さん、大丈夫ですか? あの調子で専務に意地悪されていませんか?」


 朔夜さんがいなくなるやいなや、田宮さんがわざとらしいほどのしかめっ面でここぞとばかりに尋ねてくる。
 私はくすりと笑った。


「朔夜さんには、いつも優しくしてもらってますよ。こっちが申し訳なくなるくらいに」


 さすがに子どもみたいに手を繋いでもらって寝ているとは恥ずかしくて言えないが、誤解がないよう話す。

 すると田宮さんも、ふっと表情を優しく緩めた。


「陽咲さんが申し訳ないと感じる必要はないと思います。同居の話含め、すべて専務が勝手にやっていることでしょう?」
「……私が、頼りないから……だから朔夜さんが、世話を焼いてくれるんです」
「あなたがどうとかではなく、ただあの人が、あなたの力になりたいのでしょう。勝手にやらせておけばいいんです」


 肩をすくめる田宮さんに、私はなんと返せばいいかわからず戸惑ってしまう。

 すると彼は、今度はにやりとイタズラっぽく笑った。


「むしろ遠慮なく、専務に思う存分あなたへ尽くさせてあげてください。うれしそうなので」
「う、うれしそう……?」


 思わず目をまたたかせる。私に尽くして、朔夜さんがうれしそうとは……?


「はい。あなたとお兄さまには世話になったから、できることはなんでもしてあげたいと言ってましたよ」
「……そんな」


 私にも、そしてきっと兄にも、朔夜さんに“お世話してあげた”なんて感覚はない。

 それどころか、今お世話になりっぱなしなのは私の方である。なのに田宮さんは、それを『申し訳ないと思う必要はない』なんて言う。
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