真夜中プラトニック
「陽咲ちゃんが意識を失って倒れたのは、睡眠不足で貧血を起こしたってことみたい。軽い栄養失調もあるそうで、ひとまず二・三日入院してもらって様子をみるらしいわ」
「そうですか……」
歌子さんの説明に、朔夜さんはため息交じりに返す。
そうして再びくるりと顔をこちらへ向けると、私と目を合わせたまま頭をそっと優しく撫でた。
「心配した。とりあえず、無事でよかった」
「……ごめんなさい」
こんなふうに彼に頭を撫でられたのは初めてで、そんな場合ではないとわかりつつ不意に鼓動が速まる。
でもそれはそれとして、まるでイタズラを叱られた子どものような心地で素直に謝罪すると、朔夜さんはこわばっていた表情をふっとわずかに緩めた。
「なにか必要なものがあれば言ってくれ。俺か……田宮に届けさせるから」
田宮さんとは、朔夜さんの秘書をしている男性だ。私も一度だけ会ったことがある。
朔夜さんは大手食品メーカー『株式会社アキヅキフーズ』の社長令息で自身も専務の役職についている、いわゆる御曹司なのだ。
いつだって忙しそうにしている彼を私のせいで呼び出してしまったのも申し訳ないのに、そこからまださらに面倒をかけなければならない。
しかも朔夜さん本人だけじゃなく、秘書の田宮さんにまで……。
ますますいたたまれなくなった私は、布団の中で身を縮ませながら思わず顔を歪めた。
「ありがとうございます……すみません、迷惑かけて」
「迷惑だなんて思ってない。きみはもっと人を頼れ。……陽咲になにかあったら、陽葵に会わす顔がない」
淡々と答えた朔夜さんの表情はけれどもやわらかく、その優しい眼差しに泣きたくなる。
二十三歳の私より六つも年上で、容姿や肩書きが飛び抜けて華やかな朔夜さんと、容姿も経歴も人並み、一般庶民な私。
普通に暮らしていたら到底知り合うこともなさそうな私たちを繋ぐのは、亡くなった私の兄──春日陽葵の存在だ。
「そうですか……」
歌子さんの説明に、朔夜さんはため息交じりに返す。
そうして再びくるりと顔をこちらへ向けると、私と目を合わせたまま頭をそっと優しく撫でた。
「心配した。とりあえず、無事でよかった」
「……ごめんなさい」
こんなふうに彼に頭を撫でられたのは初めてで、そんな場合ではないとわかりつつ不意に鼓動が速まる。
でもそれはそれとして、まるでイタズラを叱られた子どものような心地で素直に謝罪すると、朔夜さんはこわばっていた表情をふっとわずかに緩めた。
「なにか必要なものがあれば言ってくれ。俺か……田宮に届けさせるから」
田宮さんとは、朔夜さんの秘書をしている男性だ。私も一度だけ会ったことがある。
朔夜さんは大手食品メーカー『株式会社アキヅキフーズ』の社長令息で自身も専務の役職についている、いわゆる御曹司なのだ。
いつだって忙しそうにしている彼を私のせいで呼び出してしまったのも申し訳ないのに、そこからまださらに面倒をかけなければならない。
しかも朔夜さん本人だけじゃなく、秘書の田宮さんにまで……。
ますますいたたまれなくなった私は、布団の中で身を縮ませながら思わず顔を歪めた。
「ありがとうございます……すみません、迷惑かけて」
「迷惑だなんて思ってない。きみはもっと人を頼れ。……陽咲になにかあったら、陽葵に会わす顔がない」
淡々と答えた朔夜さんの表情はけれどもやわらかく、その優しい眼差しに泣きたくなる。
二十三歳の私より六つも年上で、容姿や肩書きが飛び抜けて華やかな朔夜さんと、容姿も経歴も人並み、一般庶民な私。
普通に暮らしていたら到底知り合うこともなさそうな私たちを繋ぐのは、亡くなった私の兄──春日陽葵の存在だ。