エリート外交官は溢れる愛をもう隠さない~プラトニックな関係はここまでです~
 仕事の日や休日とはまた違う雰囲気でセットされたヘアスタイル。

 ネイビーのスーツに、白いドレスシャツ。
 ライトグレーのベストにブルーのネクタイを合わせた朔夜さんは、惚れ惚れするほどスタイリッシュでかっこよかった。


「待たせた。会場はホテル・ハイドレンジアだったか?」
「ええ。ここからなら車で十五分ほどですね」


 腕時計をつけながら話す朔夜さんに答えながら、田宮さんが立ち上がる。そろそろ出発する時間なのだろう。

 つられて立った私に、朔夜さんがまっすぐな視線を向ける。衣装も相まったその破壊力に、ドキ、と心臓が大きくはねた。


「帰りは遅くなると思う。陽咲は気にせず先に寝ていて」
「わかりました」


 高鳴る胸をこっそり押さえながらうなずいた。

 ふ、と目もとを緩めた朔夜さんが、イタズラっぽく言う。 


「本当は田宮じゃなくて、陽咲を連れて歩く方が楽しいんだけどな」
「え?」
「専務、さすがに僕も泣きますよ?」


 すかさずツッコミを入れる田宮さんには申し訳ないと思いつつ、くすりと笑ってしまう。


「ふふっ。美味しそうな食べ物がたくさんありそうなのは、心惹かれますけどね」
「なら、きみがパートナーとして一緒に出てくれるか?」


 口もとに笑みは浮かんでいるけれど、なんとなく、朔夜さんの目は本気のようにも見えた。

 私はそれに戸惑いながら、苦笑する。


「……まさか。私じゃ、朔夜さんと釣り合いませんよ」
「そ──」


 朔夜さんがさらに何か言いかけたところで、田宮さんがポンと彼の肩を叩いた。
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