真夜中プラトニック
5.“彼女”と欲
レトロな木製のドアを開けると、カラン、と可愛らしいベルの音がした。
待ち合わせの相手はすぐに見つかって、私はカウンターの向こうの店員さんに会釈してからその人物のいる席へと近づく。
「お待たせしました、歌子さん」
私の声で手もとの文庫から顔を上げた彼女が、ニコリと笑う。
「私もさっき来たところなの。少しだけ久しぶりね、陽咲ちゃん」
「はい。お久しぶりです」
約一ヶ月ぶりに会った歌子さんに促され、私はテーブルを挟んだ向かいの席に腰を下ろした。
「とりあえず、何か頼みましょ。ここはコーヒーはもちろん、食事もスイーツも美味しいのよ」
「そう言われると、迷っちゃいます」
結局、私は歌子さんと同じくケーキセットを注文した。歌子さんがチーズケーキ、私がモンブランで、ドリンクはふたりともオリジナルブレンドコーヒーだ。
オーダーを取った店員さんが去ったタイミングで、歌子さんに話しかけた。
「素敵なお店ですね。隠れ家的な雰囲気で」
「ふふ、でしょう? 社長とよく来るの」
私の言葉に、テーブルの上で手を組んだ彼女は楽しげに笑みをこぼす。
今朝、歌子さんから【仕事で近くに行くんだけど、会えないかしら?】と連絡が来て、私はよろこんでそのお誘いを受けた。
彼女が指定したのは、朔夜さんのマンションからほど近い場所にあったこの純喫茶だ。
外や屋根にツタが絡まった外観は一見すると入りづらい印象だけれど、店内は窓から差し込む自然光がとても居心地のいい空間を創り出している。
至るところに並ぶアンティークなアイテムが、レトロな雰囲気を後押ししていてとても素敵だ。