真夜中プラトニック
「歌子さんと社長って、本当に仲が良いですよね。仲良し夫婦で……羨ましいです」


 つい本音をこぼすと、歌子さんはまたからからと笑う。


「あら、あなたも今度秋月さんと来ればいいわよ」


 なんとなく、彼女が“何らかの”勘違いをしているような気がしたけれど、私はとりあえず曖昧に笑いながら「はい、誘ってみます」と答えるにとどめた。

 そうこうしているうち、注文したケーキセットふたつが到着する。ひとくち飲んだブレンドは、苦味と酸味のバランスが好みでとても美味しい。


「本当に、陽咲ちゃんが元気そうで安心したわ。最後に会ったときより、すっかり顔色もいいわね」
「……その節は、ご迷惑とご心配をおかけしました」


 というか、今も現在進行形で迷惑と心配はかけているような気もする。

 持ちかけたフォークを戻しつつ頭を下げた私を、歌子さんが慌てて止めた。


「いいのよ、もう! 心配はこっちが勝手にしてるんだから! 秋月さんと同居するって聞いたときは、最初驚いたけど……うまくいっているようで、何よりよ」


 優しげな眼差しでそう言ってくれる彼女に、膝の上に置いた両手をきゅっと握りしめながら真剣に答える。


「……はい。朔夜さんには、とても良くしていただいています」
「その分だと、彼からの定期報告に嘘偽りはなさそうね。ホッとしたわぁ」
「え?」


 きょとんと目をまたたかせた私へ、歌子さんがイタズラっぽい笑みをみせた。


「あら、知らなかった? 一週間に一度、秋月さんが近況報告の電話をくれるの。真面目よね、彼」


 ……知らなかった。朔夜さん、そんなことまでしてくれていたんだ。

 ひけらかさない彼の心遣いに、きゅうっと胸がときめいた。歌子さんは、訳知り顔でニコニコしている。
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