真夜中プラトニック
「陽咲ちゃん、大事にしてもらっているのねぇ。秋月さんにお任せして良かったわぁ」
「……朔夜さんは、優しい、ので……」
「うんうん。陽咲ちゃんには幸せになってもらいたいもの、優しい人で良かったわぁ」


 なんか、やっぱり、勘違いをされている気がする。いや、たぶんきっと、一部は勘違いじゃないんだけど……。

 熱くなってきた頬を誤魔化すように、モンブランをパクリとひと口頬張った。

 甘い。美味しい。ふわりと身体を幸福感が包んで、けれどもそこに、ふとよみがえった今朝の記憶が影を落とす。


『今日は仕事の後知り合いと会う約束があるから、俺の分の夕飯は用意しなくて大丈夫だ』


 出勤する朔夜さんを玄関で見送った際に、かけられた言葉。

 一瞬。ほんの一瞬、私はそのセリフに顔をこわばらせてしまった。

 けれどもすぐに笑みを取り繕い、『わかりました。気をつけて行ってらっしゃい』と返したのだ。

 ……今夜、朔夜さんが会う相手は……おそらく、昨日の電話の女性なのだろう。

 彼から直接聞いたわけでもないのに、なんとなく、そんな気がした。もしかしてこれが、女の勘というやつなんだろうか。

 まさか私にも、こんなものが備わっていたとは……我ながら色恋事に疎い性格だと自覚しているし、夢にも思わなかった。 


「やっぱり、ここのチーズケーキは絶品だわぁ」
「モンブランも、とっても美味しいです」


 そんなふうに歌子さんと話しながら飲み込んだコーヒーの苦味が、さっきより少しだけ強く感じる。

 今は、まだ──後戻りできる気持ちだと、必死で自分に言い聞かせていた。
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