真夜中プラトニック
「いや……ふたりを会わせたいと思ったのは、俺の勝手だったから。むしろ、そう言ってもらえて俺の方こそありがたい」


 彼の優しい笑顔と言葉に、きゅうっと胸が締めつけられる。

 ああ……やっぱり、好きだなあ。
 身の程知らずだと、痛いほど、わかっているのに。

 今にもあふれだしそうな気持ちを誤魔化すように、私は彼から視線を逸らした。


「わ、私、今日朔夜さんが連れて来るのは、朔夜さんの恋人だと思っていたんです」
「え?」


 朔夜さんが、不意を突かれたように声をあげる。

 なにかに追い立てられるように、口が勝手に動いて止まらない。私は彼と目を合わせられないまま、話し続けた。


「だから、今日は慌てて部屋探しをしていたんですよ。早くここから出て行かなくちゃって……朔夜さんと恋人さんの邪魔は、したくないですから。あ、実は、内見に行った部屋の中にいい感じのところがあって──」


 そこで突然、左腕を掴まれたから驚いた。

 ハッと顔を上げた私の目に、なぜか苦しげな表情をした朔夜さんが映ったから、どくんと心臓が大きくはねる。


「……部屋探しなら、俺が安心できるところを探すから、任せてくれと言った」
「そ、れは、そうでしたけど……でもやっぱり、恋人さんにも悪いなって思って、だから、」
「恋人なんていない」
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