真夜中プラトニック
 彼女が出してくれた紅茶をいそいそと飲み干して、私たちは成美の住むマンションの近所にあるベトナム料理のお店にやって来た。最近成美がハマっているらしい。


「そういえば陽咲って今、知り合いの人と一緒に暮らしてるんでしょ? うまくやってる?」


 オーダーしたものが届くのを待つ間、テーブルに頬杖をついた成美が軽い調子で尋ねてきた。その質問に、私はギクリとする。

 成美は、兄の件を知っている。そして私が倒れた後、病院にも一度お見舞いに来てくれた。あのときは、ものすごく泣かせてしまったしものすごく怒られたな……。

 だけど朔夜さんとの同居の話は、「知り合いとしばらく一緒に住むことになった」とざっくりとしか伝えていなかったのだ。おそらく成美は、私の同居相手は女性だと思っているだろう。

 ここで初めて私は、意を決して朔夜さんのことを打ち明けた。

 兄の親友だったこと。私を心配して、同居を申し出てくれたこと。

 ……私が彼に、恋をしていること。

 一通り話し終えたところで、オーダーした料理が届いた。ほかほかと湯気をたてるフォーの向こうで、成美はあんぐりと口を開けて目を丸くしている。


「へええぇぇぇぇ……いつまでも男っ気なかった陽咲が、まさかそんなことに」


 まじまじと私を眺めながら、しみじみとそう話す友人。
 私はなんだか気恥ずかしくて、パクリと春巻にかぶりついた。うん、美味しい。
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